後藤研究室

将来計画

2002年9月8日

空想とほんの少しの真実

-ローマは一日にしては成らず-

理工学部を巡る諸問題の多くは学部と大学院の関係の歪みに起因する。理工学部は今やその実質に比べあるいは容器が小さ過ぎ,あるいは大学院という重荷に耐え兼ね,背骨が曲がって来ているように見える。大学院を実体的に機能させ器を大きくすることが,研究教育両面での次の飛躍に不可欠ではないであろうか。有力大学の多くが既にこの方向への転換を完了して久しいことは決して忘るべきでない。

明治大学内では,理工学研究科は理工学部とは独立した別組織であることになっているにも拘らず,予算は年間10万円くらいしか付かないし人事権もない。大学院には専任教員を一人も置かず,すべて学部の兼担で賄い,大学院専用のスペース・研究費・機器備品費は1円もない。このような大学院経営は確かに安上がりに付くではあろうが,博士前期課程定員が300名を越える大学院組織の在り方としては尋常でなく,余り他に類を見ないのではないかと推察される。大学院を担当する教員は,実質的には10数コマの負担を抱えながら研究と教育に従事している一方,大学院を担当しない教員或いは部局の授業負担は5・6コマであり,労働の重さにこれほどの格差が在るにも拘らず,給与水準が基本的に年齢と職格のみで定まるという現状は,大学院担当教員の志気を相当に阻喪するだけではなく,近代的な労働感覚・経営感覚から判断してもかなり合理性を欠いたものに見受けられる。大学院生から見れば,納入する授業料等が大学院の予算としては計上されず,実験実習費を除けば,大学院学生の研究・教育のためのスペース・研究費・機器備品費として十分に還付されていない現状は到底納得できるものではなく,明治大学としては大学院生から授業料等納付金の使途について正式に説明を求められたとき,どのように釈明するつもりであろうか,見物である。法規上も建前上も完全に別組織であるにも拘らず,母家は学部だけという歪な大学院と学部の関係が,わが学部の苦しみの原因であり,この歪みを取り除かない限り問題の根本的解決には至らないであろうと思われる。

以下の提案と議論は,大学当局を動かして問題の解決が計られる可能性が当面は非常に小さいとの判断の下に,可能な最良の途を探ろうとするものである。確かな実体はあれど容れ物がないという大学院研究科を救い,学部と併せて単一の組織のごとく動かすにはどのようにすればよいか,次善の策を積み上げたものであるから,論理的に無理があり,絶えずうさん臭さとすっきりしない部分が付きまとう。根本的な解決を図る方法の一つは,理工学部から駿河台の大学中枢に人を送り込み,実権を握ることである。100年河清を待つよりは賢明かも知れない。

6年制一貫教育

1 制度の狙い
この制度は,卒業後に実社会に生きて自らを発揮し,社会構造の変化や経済状況の激変にも挫けることなく自律的主体的に生き抜くことのできる力量と基礎体力を付けて学生達を世に送り,創造力と活動力ある市民を育成することを通して国家と社会の発展と繁栄に寄与せんとするものである。

この目的に共鳴して制度に参加し,己を高めるべく努力を開始し勉学に励む学生を一人でも多く集め得ることが,直接間接に所属研究室に活気と活力を与え,ひいては研究水準の向上を齎し,卒業生の社会における活躍を通じて外部世界の理工学部研究室への評価を高め,迂遠ながらもやがては入学者の資質と学力向上を齎し,理工学部全体の研究水準の向上をも齎すという望ましい「循環」を期待するからである。学生達の成長の中に我らの希望もあるということを銘記すべきである。

この立場から,研究室所属の学部学生は勿論,大学院生達を単に「戦力」とのみ見る観点は,これを採用しない。

最大の問題はいかにして大学院進学者を増やすかという点にある。授業料をもう一度引き下げ,国立大学並にできないものか。また,将来例えば幸いにも450人の大学院入学者が出るように成ったときには,教員数が絶対的に不足するに違いないと予想される。

2 実行案=Courses制

  1. Academic Course:学部を3年間で卒業して大学院に進学し,博士前期課程を修了後は後期課程に進学し,1年乃至2年で博士の学位を取得し,大学等academic positionへの就職を狙うcourse。研究者・学問研究上の後継者養成を主目的とする。
  2. Standard Course:学部を4年間で卒業して大学院へ進学し,前期課程修了後は企業の研究開発部門・公務員・教員職等への就職を狙うcourse。高い専門知識と実力を持ち,研究開発部門における実務に従事し,社会の発展と繁栄への直接的寄与が期待される。
  3. Engineer Course:学部を4年間で卒業し,企業等への就職,他大学大学院進学のcourse。主に,教養と専門知識を持った堅実な社会人の育成を目指す。

3 実行のために

  1. 3・4年生の授業科目と大学院講義科目の単位互換制を始める。
  2. 学部における年間取得単位数の上限を撤廃する。
  3. 学部における上位学年科目の聴講を可能にする。
  4. 3年で学部を卒業する計画の学生は,2年次修了までにその計画を申告させ,4年次に於ける必修科目(ゼミナール・卒業研究等)単位取得を免除する規定を創る。

4 支援態勢

  1. 大学院学生専用の研究室・居場所が絶対に必要である。現実に入学者が1学年300名を越えている現在,大学院学生のためにも研究費配分・研究用機器備品費の配分が必ず行われるべきである。
  2. MC・DC修了者の就職支援態勢の強化充実が必要である。
  3. PDAS3年制が必要である。
  4. 助手達に自律的に判断し行動させるため,助手会を創る必要がある。
  5. 研究者養成型助手の給与水準を下げても,採用人数の拡大を図る必要が生じるかも知れない。
  6. 学部学科と大学院専攻の「転科」を大幅に自由化し,学生が柔軟に進路を探し,選べるようにすべきである。大学院改組も視野に入れる必要があるかも知れない。
  7. MCの学生をTAとして1・2年次の授業に参加協力させ,大学院学生と学部下位学年の交流接触を密にすることが望まれる。

5 学部教育の改善

(1)勉学の動機付けと目的意識の高揚のため,学部1または2年次に「専門科目のゼミナール」を設けることが望ましい。
大学は「学問の場」であり,教員や大学院生達にとってはその理念が「研究」という形で具現し,学部学生にとっては「勉学・学習」という形で現れる。偏頗な研究者を育てることに繋がる危険が大きいため,学部1・2年次の勉学を非常に狭い意味で「専門科目のための基礎科目」と限定的に位置付けることは好ましいことではないが,かっての「一般教育」的観点に近い「教育=人間形成」の場であると捕らえる立場もこれを採用しない。大学には「人間形成の専門家」は存在しないからである。

(2)このcourses制に合わせた形で学部教育を再構築することが必要かも知れない。学部の1・2年次はcourses制のための「基礎教育」という立場に徹し,目標に合わせた厳しい訓練を施し,これを通過した者にだけ上位学年への進級を許すという制度が望ましい。この観点からは,3年次に入り進級して行く専門学科は,2年次終了後に決定・選択させるという制度の方が妥当であり,合理性があるかも知れない。但しこの制度を採用すると,幼稚化が著しい学部学生にとっては,1・2年次に於ける勉学の動機付けを如何に行うか,勉学の目的意識を如何に確立するかという点で,学部は大きな困難を抱え込むことになるであろう。少なくとも学生の心理上では,受験勉強が更に2年間延長されるだけという結果に終わることを恐れる。

(3)学部3年卒業制を充実するには,学部学生の成績評価の仕方を「教育目標」到達度で正確に計る方向に変える必要がある。授業効果が挙がらなかった場合には,その原因と理由を明らかにしておく必要がある。入学して来る学生達の資質から判断するに,入学学生のほぼ9割が4年で大学を卒業し,ほぼ全員が何とか卒業に漕ぎ着け,学士の学位を取得するという現状は俄には信じがたく,いささか不自然に思える。学生の評価法に問題が在るのではないか。実際には1/3が卒業できずに中途退学しても不思議ではないのが実状である (No. 9参照)。教育目標は,Standard Course・Academic Courseは「大学院進学後の研究の準備」,Engineer Courseなら「卒業研究の準備」として十分であるかどうかを基準にすべきである。

(4)学部に於ける学習に適切な緊張を与えメリハリを付けるため,学部2年と3年の間にこそ進級関門を設けるべきである。留年落第は1回に限ってこれを受け入れ,2度目は退学勧告をする必要がある (No. 9参照)。

採用・昇格に新たにExpress Courseを創る

1 制度の狙い
組織の「良質部分」に光をあてこれを暖め,重点的に育成する必要があるのは,学生達に対してのみではなく,教員達にも同様である。研究者として生きる者で「よい仕事をしたい・偉くなりたい」と願わぬものは稀であろう。この様な「野心・名誉欲・上昇欲求」は人間本来の欲求でもあり,研究者として大成するためのエネルギーの源の一つである。栄誉と実益が伴う形で研究者の野心をauthorizeしこれを育てることは,組織に活力を取り戻す有効な方法の一つとなってくれるに違いない。

学生に対すると同様に「信賞必罰」の態勢を部分的にしろ導入することが望ましい。優良債権と不良債権を明確に区別し,区別に基づいて合理的かつ妥当な対応をする仕組を造らず,公平・平等の建前の下に味噌も糞も一緒くたにすれば,不良部分にはさしたる変化が見られないにも拘らず良質部分が伸び悩み腐って行くことは,日本の銀行の例が実証するところである。機会は均等公平であらねばならないが,その後の待遇は業績に従う必要がある。単純な年功序列制はこれを採用しない。公正は平等を意味するとは限らないからである。

このExpress Courseは30代前半の教授を造ることに眼目がある。若手の優秀な教授を例えば20人造り,給与・研究費(重点研究・機器備品費・中型設備・大型機器等)とスペース配分(HRC等)・teaching dutyの面で明瞭な傾斜配分を行い敬意を以て厚遇すれば,組織の中に「俺も・私も」と奮起する部分を生じせしめるであろう。また,数多くの30歳代教授の優れた研究業績は,必ず学部の対外評価を高めるに違いない。

2 制度
Express Courseでは,採用・昇格にあたって

  1. 年齢・教育経験を一切問わない。
  2. 「研究業績・研究能力・将来性・人物」のみを問題とする。
  3. 研究業績は,権威ある査読付き専門学術誌に掲載されたもののみを考慮対象とし,質のみではなく,「総数」を問題とする。

3 問題点

研究者として優れている者の多くが実は優れた教育者でもある。そのような現象が起こる理由は多様であって個人差も大きいと思われるが,一般論として,優れた研究を実行し成果を挙げ得た者の多くが,学問・技術の修得にはどのような方法があり,如何なる作法が必要であるかを熟知しているのみでなく,研究の本質が研究者の内面世界の構造と密接に関連していることをよく知っていて,この意味での「人間理解」に優れていることと無関係ではないと想像される。そのような人々は専門知識や能力のみでなく,大局観の点でも優れていることが多い。我が理工学部では優れた専門知識とこれに裏付けられた深い人間理解に基づく「教育」が求められる。しかしながら,天才的研究者の中には時折,人間的に未熟であって問題があり,組織人としては歓迎し難い人物が少なくないことも厳然たる事実である。Express Courseの運用に当たっては十分な配慮が必要となる所以である。

研究専念型「専任講師・助教授」= 一部任期制の導入,教育専念型教員制

1 制度の狙い
基本的には任期制の導入と定年制の見直しは必要であると考える。但し,組織の人々の心を暗く委縮させるような,単純な任期制や定年制の見直しは絶対にこれを採用しない。

「専任講師・助教授」職は一期5年の任期制とし,契約は1回だけ更新することが望ましい。理工学部の教員任用規準を検討するに,現行のものは言うまでもなく,新たに提案するExpress Courseにしても,採用・昇格の条件・資格が完全に公開されていて,その条件が妥当穏健なものであることは周知の通りである。大多数は採用後5年間で昇格条件を満たすと予想される。10年間を与えてなお昇格条件を満たさない者には「在職資格がない」と判断する方が公正であり,10年後に契約を更新しないことに対し社会の批判を招く恐れは,極めて小さいと判断される。

人間は環境の産物である。10年間に5編の論文が書けなければ解雇されると予め通告され,これを承知していてなお,10年間にたった5編の論文が書けない研究者は居ないであろう。これまでの「昇格遅滞者」にはこのような妥当にして有効かつ適切な強制力が作用しなかったことが,彼らと学部にとって不幸の始まりなのではあるまいか。

期限付き採用者は研究専念型「専任講師・助教授」として待遇する必要がある。彼らは当然ながら研究成果を挙げることに熱中するであろうから,当初からteaching duaty・職務委員等の負担から解放しておくことが望まれる。このように,生き残りを賭けて研究に専念する若い人々の集団は,学部学科内の古い人間関係と淀んだ研究状況に清々しい緊張を齎し,否応なく研究の活性化を促し,研究水準の向上と成果の拡大を齎すに相違ないと思われる。

2 制度の内容

  1. 定年退職予定者の後任を補充する場合には,後任者を専任講師・助教授で採用する場合に限り,5年間の前倒し人事を行うことができるようにして欲しい。
  2. この補充人事は一期5年の任期制であり,1回だけ更新することができる。
  3. 採用後10年を経過した後なお助教授又は教授への昇格条件を満たさない場合には,雇用契約は継続されない。
  4. 専任講師として採用され10年後に助教授に昇格した者は,助教授としては5年間の期限付き採用であり,5年後に教授昇格が実現しない限り雇用契約は更新されない。

3 支援体制

  1. 任期に期限を付けて採用された者は,一期目の任用期間5年は,原則として学部授業負担を免除され,その職務は大学院担当に限定されることが望ましい。学部内外の諸委員には推薦しない。研究費(重点研究・機器備品費・中型設備・大型機器等)とスペース配分(HRC等) の傾斜配分を行い,研究専念型「専任講師・助教授」として,敬意を払われた待遇を用意さるべきである。
  2. 教育専念型教員の制度を造る必要がある。研究に専念する教員の存在には,これを支援する教育専念型の教員の存在が不可欠である。優れた研究経歴を持つ教員が自らの判断と自由意志で,学部授業のみを負担する教育専念の途を選ぶことは敬意を持って評価され,歓迎さるべきである。豊富な研究経験を生かした授業は学生達に広く大きな世界を提示し,実り豊かな成果を生むであろう。学部位は誰でも教えられるという考えはこれを採用しない。学部教育を疎かにするとそのツケは研究レベルの低下と言う形でたちまち大学院に回ってくるからである。教育専念型の教員にもその適格性を審査する評価法が必要であろう。少なくとも,あるレベル以上の研究経験がない教員は,教育専念型の教員としての適格性を欠くと想像される。

[学部長=研究科委員長,学科長=専攻主任] 制,正教授会制

教授会を正教授会に戻すことは

  1. 専任講師・助教授を教授会の審議事項から解放し,研究・教育に専念せしめることができる
  2. 教授職責任の専任講師・助教授職に優越する重さを明確にする
  3. 時間割上で金曜日の午後の一部を有効活用できる
  4. 教授会の開催回数を多少は増やすことができる
    といった長所と思われる要素があるが,
  5. 専任講師・助教授に対する学部内政治社会教育の機会が大幅に失われる
  6. 専任講師・助教授が自らの利害に深く関係する問題について学部の意志決定に直接関与する機会が大きく失われる

という欠点がある。それでもなお正教授会に戻すことによって,「儀式化された教授会」出席から解放されることは,心身共に専任講師・助教授職にとって益する所の方が大きいのではないかと判断される。

学部長に「教員の研究業績を調査・評価し,調査結果に基づいて適切な措置を取る」権限を付与する

学部長は単なる教授会の議長ではない。動乱の時代に於ける学部の指導者であり,存亡を賭けた戦いに於ける司令官てある。学部長に少なくとも「教員の研究業績を調査・評価し,調査結果に基づいて適切な措置を取る」権限を与えることは,学部の不良債権処理のためには絶対に必要なことである。この調査結果に基づいて,教員の研究業績がその教員の昇格・研究費(重点研究・機器備品費・中型設備・大型機器等)とスペース配分(HRC等)・teaching duty・職務委員・管理義務等の重さに直接反映するようになることが望まれる。現状は,研究・教育の両面に優れた教員を腐らせる方向にありはしないか。心ある教員・志の高い教員は厚遇すべきであって,味噌も糞も一緒くたにすることは,一日も早く止めるべきである (No. 6参照)。同僚他大学に於ける組織の優良部分に対する大胆な待遇改善を見るにつけ,このままでは理工学部の未来は暗いのではないかと憂える。ある種の平等主義が人間から自発的なエネルギーを奪い官僚主義的悪平等を齎す恐れがあることは,ソヴィエト社会主義人民共和国連邦の崩壊が実証する所であり,理工学部にとっては自滅行為となる可能性が大きい。

著しく研究業績が見劣りする個人・部局には,学部長が直接指導し,改善が見られない場合には,部局を通して早期退職を勧告すべきである。退職するか減給に応じさせ,減給の場合には減給分で若年者の任期付き雇用を行うようにすれば,学部にとっても本人にとっても名分が立ち,得るところが少なくない。このような形の定年制一部見直しがあってもよいと思われる(No. 8参照)。

COEメンバーの待遇改善

COEメンバーという形で,研究専念型教員を創ることが望ましい。COEに採用されようとされまいと,5年間の期限付で,大学院担当・学部授業負担免除・各種職務委員免除・研究費(重点研究・機器備品費・中型設備・大型機器等)とスペース配分(HRC等) の重点配分を断行すべきである。優れた仕事をした人々は褒め讚えなければならない,彼らは我々の宝であるのだから。

PDAS3年制実施

他大学の例を見るかぎり,PDAS3年制・更新無しは時代の趨勢である。枠に余裕が生じたら,学外に公募し,他大学からも受け入れることが望ましい。理工研のPDにとって他大学から赴任したPDとの接触が研究上の望ましい刺激を齎す可能性は大きい。

定年制の一部見直し

1 狙い
大学教員は教育を通して次代を背負う国民を育成すると同時に,研究を通して学問水準を維持しその発展に寄与するという,二つの重い使命を帯びる。この使命を実現するためにこそ大幅に自由な時間と高給が保証されているのであろう。この恵まれた職は決して単なる「私的幸福追及」の手段ではない。多数の優れた若年「研究者候補」が大学に職を求めつつ,果たせずにいることは紛れもない事実であり,この故に,大学教員はすべからく自らがその職に相応しいかどうか,問い質し続ける義務があると考えられる。私立大学といえど,助成金として多額の国費が投入されている事実も,忘るべきではない。大学教員の職は公的なものであり決して私物ではないのである。

理工学部に於ける現行任用制度は公平であり,機会均等という観点からも平等である。刑法に触れる重大な犯罪を起こさぬ限り決して解雇されることがないという意味では安定した雇用形態であるが,社会的責務を忘れて大学教員の職を私物化し,微温的な「庇いあい」構造を生じせしめる原因ともなり得る。ある種の人々に「苦労して努力し,成功するかどうかも定かでない冒険的な課題に挑むのは愚かしい。成功したからと言って,誰からも褒められるわけではなく,待遇面で実益が伴うわけでもない。ともかく,サボらずに学部の授業をしていればクビにはならないし,他には特に何もしなくても日々そこそこ暮らせるのだし…。」という姿勢が蔓延る原因の一つとなるのは已むを得ないところである。

例えば仮に,「こんな所で教授になっても仕方がない,雑用が増えるだけである」と称し,10年以上も助教授を続ける人が居たとしよう。普通の感覚であれば,実際に10年も20年も助教授のままでいることが可能な任用制度に疑問を抱くであろうし,教授に昇格しても権限が拡大するとは限らないにも拘らず,管理業務を中心に仕事が増え,研究時間の制約が大きくなっているという確かな現実にも問題を感じるに違いない。もっと極端な仮定をしてみよう。仮に,30年前に助教授として採用され,30年後も助教授として在職し,この間に研究業績が「1」在るかどうかさえ不明確な人物がいて,教育面でも,例えば学部で授業をしても「全くわからない」と受講学生達の評判は芳しくなく,度重なる職務上の注意勧告に対しても何ら改善が見られないという手合が居たと仮定する。このような人物であったとしても,70歳まで雇用が保証され,周りの人間にできることが歯がみしながら定年退職の日を指折り数えて待つことだけであったとしたら,これは恥ずべき事態であると普通の感覚ならそう判断するに違いない。また仮に,専門学科「教授」の地位に在って,自らの能力不足を理由に「大学院担当を拒む」という人が出現したりしても,生首を切ることもできず,打つ手が無いというのが実状ではあるまいか。つまり,現行の任用制度は性善説に基づいていて,「悪質な」例外的存在に対しては無力なのである。

2 制度
下記の例外的対象者

  1. 10年を越えて助教授・専任講師職に留まる昇格遅滞者,又は
  2. 教授であって特別の理由なく大学院を担当しない者,又は
  3. 教授であって研究業績が著しく見劣りする者

に限り,学部長権限を以て調査と事情聴取を行い,改善の機会を与え,しかもなお状況打開の可能性が小さいと判断される場合には,早期退職勧告または減給のいずれかの措置を取る。減給の場合には余剰資金を以て若年者の期限付雇用を行うことが望まれる。

学部学生の成績不良者には退学勧告を行う

社会的に支持され得る,妥当かつ合理的な教員審査と評価法を導入した暁には,学生の学業成績評価法を変え,成績不良者は退学勧告をし,実際に退学させることがあって良いと思われる。学生成績評価の仕方を「教育目標」到達度で正確に計る方向に変える必要が生じるであろう。入学学生の資質から判断するに,平均的に入学学生のほぼ9割が4年で大学を卒業し,ほぼ全員が何とか卒業に漕ぎ着け学士の学位を取得するという現状は俄には信じがたく,いささか不自然に思える。学生の評価法に問題があるのではないだろうか。進学率を考慮し,理工学部の教育課程の相当の高度さを考えると,1/3が卒業できず中途退学してもさほど不思議ではないと判断されるからである。果たして学外の審査機関の評価に堪えられるかどうか,疑問なしとしない所以である。

他にも,

  1. 学部に於ける勉学と学習に適切な緊張を与えるため,学部2年と3年の間に進級関門を設ける
  2. 留年・落第は1回に限りこれを受け入れ,2度目は強い退学勧告を行う

といった措置が必要であろう。

新しく「大学院研究科」を造る

植物を大きく育てたいと思う人は,木々の成長に応じて鉢を大きくしてやることを知っている。理工学部の一層の成長を願うなら器を大きくすることが不可欠である。大学院に実質を与え,人事権と予算を持った組織として,独自の判断で研究教育活動ができるようにする必要がある。新しい酒を入れるために,新しい革袋を用意する必要があるだろう。この大学院は

  1. 理工学研究科・理工学部と密接に連携しながら,研究・教育を行う。
  2. 定員:博士前期課程50名・後期課程20名位で
  3. 専任教員30名を擁し
  4. 外部から新規に招聘する研究者,理工学研究科・理工学部の現有勢力の最良の部分を結集し,理工学部のCOE構想・戦略の中心に据える。

徐々に理工学研究科をMITに吸収合併し,将来的には一つの組織にすることが望ましい。このような新組織を造り,学部の閉塞状況や教員達の閉塞感に風穴を空けることが,切実に望まれる。